第322回 Rhymester『HEAT ISLAND』

HEAT ISLAND

HEAT ISLAND


RHYMESTERのニューアルバムです。全体の雰囲気としては、『グレイゾーン』の延長戦みたいな感じで、決して『リスペクト』とは違う方向性ですが、前作より完成度が高いと思います(ただし、『グレイゾーン』は今回の途中経過的作品ということで、不出来というわけではない)。『ウワサの伴奏~And The Band Played On~』から『グレイゾーン』を経て、今回の作品ができる過程がわかりやすいですね。
今回の曲のなかで、「HIPHOPのワク」に触れていて言いにくいのですが、しかし、やっぱり「HIPHOPのワク」を越えている作品だと思います。このアルバムは、日本語ラップに興味がない人でも楽しめる作品でしょう。
言ってしまえば、あまりガチガチのHIPHOPらしい作品ではありませんが、でも、この『HEAT ISLAND』も立派なHIPHOPでしょう。忘れてしまいがちなのですが、HIPHOPも音楽なんですよね。
それにしても、RHYMESTERも多くのアルバムをリリースしてきましたが、どれをとっても同じニオイのするアルバムはありません。甘えることなく、常に新しい音を求める姿勢は素晴らしいと思います。


今回のアルバムは19曲、74分超の大作ですが、あっという間に時間が経っていきます。無駄な時間がありません。時間ギリギリというわけではないでしょうが、曲と曲のつなぎの部分も工夫されていますので、決して一曲だけ購入とかせずに、一枚まるごと聴いてください。
また、あらためて宇多丸Mummy-Dライミングのスキルの高さを感じます。「あの言葉とあの言葉で韻を踏むのか」と、言葉遊びの視点で見ても楽しめます。
それから、歌詞カードに各曲ごとに注釈があるのも、わかりやすくていいですね。


今回のアルバムは、感想を一曲ごとに書いていきたいと思います。


01、JIN-TRO:THE GATE OF THE ISLAND
今回は、DJ JINの登場回数が多いですね。DJ JIN、いきなりの登場です。
02、REDZONE
id:dmworldhh:20050830参照。
03、逃走のファンク
id:dmworldhh:20050830参照。今回のアルバムは先行シングルからの曲を先に持ってきています。
04、HEAT ISLAND feat. FIRE BALL
id:dmworldhh:20060413参照。シングルから聴いていますが、ほんとにこの曲は良いです。とりあえず、2006年3月末時点でベストシングルです。
05、けしからん
id:dmworldhh:20060413参照。
06、BIG MOUTH 2(1)[CENSORED]
前作に収録されていた「BIG MOUTH」のパート2ですが、今回はSkitで、3つに分かれています。まずは宇多丸師匠の毒舌からで、あの大グチ叩く占い師についてなのですが、別にあの人に毒を吐かなくてもいいような気もするのですが。なお、自主規制か、実名などは編集されていますが、明らかにあの人だとわかります。
07、紳士同盟 feat. ROMANCREW
占い師に続き、巷の「ちょいワル」にもちょっと毒を吐いています。名前は聞いていましたが、はじめてROMANCREWを聴きました。エムラスタが良いですね。なかなか面白いセッションです。DJ JINもラップで登場しますが、当初と比べて、ほんとにラップがうまくなりましたね。
08、東京、東京
宇多丸のヴァースの冒頭で思わず笑ってしまいました(注釈含め)。誰もが知っている(独り歩き気味の)あのフレーズのパロディです。生まれてから現在に至る、二人の足跡がわかります。
09、音楽は素晴らしい feat. SCOOBIE DO
「忘れてた。HIPHOPも音楽なんだ」と気付かされる一曲です。HIPHOPだけでなく、音楽に対する讃歌です。DJ JINが再び登場し、名言を言っています。この曲は、シングルカットされてもおかしくない傑作です。
10、JIN-GLE:THE WAY OF THE ISLAND
11、We LOVE HipHop
JIN-GLEをはさみ、今度はHIPHOP讃歌です。宇多丸師匠のヴァースは、プロのライターから、私のような零細なブログ筆者まで、HIPHOPをとやかく言う人は肝に銘じておくべきでしょう。
12、ダークフォースディスコ
まさに”ダークフォース”ですが、この曲、好きです。ライムスターのアルバムでは定番の「酒」にまつわる曲です。
13、BEDZONE
「ダークフォースディスコ」から流れるように始まりますが、「REDZONE」ならぬ「BEDZONE」がどうしようもない曲です(いい意味で)。下ネタの曲ですが、途中で高速ラップになる箇所があり、ライブで男は盛り上がるでしょう。マニアックさが匂いたつ宇多丸師匠のヴァースは、女子は引くでしょうね…。
14、BIG MOUTH 2(2)[CENSORED]
今度はMummy-Dです。得意の人名逆さまシリーズです(Mummy-Dが自分で言って、はじめて「そういや、人名を逆さまにするパターン多いな」と気付きました)。ここでも、人名が編集されていますが、別に隠さなくてもいい名前もあるし、誰だかわかりにくい名前もあります(まあ、一部、被告の名前もありますが)。ピー音なしで(「ゴメンネ」という声で消されている)、聴いてみたいですね。
15、Best Kept Secret
これも、一種のせつないラブソングととらえていいでしょう。Mummy-Dのヴァースはとてもせつないシーンですが、宇多丸師匠はまだ「BEDZONE」気分です(せつないと言えばせつないですが)。
16、LIFE GOES ON feat. Full Of Harmony
F.O.Hがいい仕事してます。個人的には、この曲をラストに持ってきたかったです。この曲になり、宇多丸師匠が、あるアイドルの死に触れながら、生きることについて真面目に書いています。
17、BIG MOUTH 2(3)
再び宇多丸師匠の東京都知事に対する毒舌です。気持ちもわかりますが、このSkitは不要な気もします。
18、ウィークエンド・シャッフル feat. MCU, RYO-Z, KREVA, CUEZERO, CHANNEL, KOHEI JAPAN, SU, LITTLE, ILMARI, GAKU-MC, SONOMI, PES, K.I.N, 童子-T
Funky Grammar勢が大集合したマイクリレーです。さすがに、大人数だけあって、7分を超えます。メンツで言えば、KICK THE CAN CREWの再結成か!?と思いますが、3人のヴァースは連続していませんので、そんな雰囲気ではありません。
DJ JIN含むbreakthroughプロデュースの曲ですが、すっきりしたトラックなので、これだけのメンバーが集まっても、それほど派手さがありません。意外にさっぱりとした仕上がりで、アルバムの核になるような曲ではありません。せっかくですから、もう一つ盛り上がりを見せてほしかったです。
KICK THE CAN CREWRIP SLYMEのMCもいいですが、それ以外のMCのラップが良いです。GAKU-MCの”気の利いた”工夫は、見ものです。
最後はFGではない、童子-Tがなぜか締めますが、別にこれを機にFG入りというわけではなさそうです(やはり、SOHJINは参加しなかったか…)。しかし、このメンバーが集まって、この曲をライブで披露することがあるのでしょうか。
19、働くおじさん
アルバム最後は、ずいぶん自虐的なタイトルです。アルバムを仕上げた開放感がよく出ています。最後の最後は、スタッフへの感謝も入っています。ライブのアンコールのラストも、これで締めるのでしょうね。