第523回 NORISIAM-X『N☆X☆R☆2』

N☆X☆R☆2

N☆X☆R☆2


HIPHOPでは、よく「リアル」であることが追求されます。
何がリアルであるか、よく議論されますが、私にはよくわかりません。
ただ、辞書的な意味である「現実的」ということであれば、NORISIAM-Xのアルバム『N☆X☆R☆2』は、他のHIPHOP作品に比べると群を抜いて「リアル」です。


日本語ラップで、ギャングスタやサグを名乗ってラップに励むアーティストもいます。私は別にそういうスタイルでも全く構わないと思っているのですが(多少、演じたっていいじゃない)、日本にはアメリカと違ってそういう”本物”の人たちはごく少数ですから、悪ぶることに対して違和感を覚えるという人もいます。また、そのことが、日本語ラップが受け入れられない理由の一つであると私は思っています。


女性ラッパーも、ギャングスタラップのスタイルでやっている人もいます。私も、この『N☆X☆R☆2』を聴く前、そういうものだろうと思っていたのですが、最後まで聴いて「なんてリアルなアルバムなんだ!」と驚きました。


まず、このアルバムを聴いて、ふつうのOLや女子大生の女の子が共感できるような曲がいっぱいあります。誘ってくる男の話だったり、好きな彼氏のことだったり、三角関係の話だったり、危ない性事情の話だったり、電車でやらしいヤツがいる時の話だったり、ダイエットの話だったり、好きなアーティストの話だったり…
一般的な女の子が普段の生活でありそうな話がいっぱいあります。


また、このNORISIAM-Xが関西出身ということで、さすが「浪花の女」といわんばかりのサービス精神が随所に見られるというのも、このアルバムの魅力でしょう。コントのようなSkitがあったり、曲ごとにスタイルを変えたりと、飽きさせません。実は80分近くもある、サービス満点なアルバムですが、あっという間に終わります。一枚のアルバムとして、ちゃんとストーリーというか流れがあるから、飽きずに聴くことができるのです。


簡単に感想を書きますと、
04.「Oventuara(A*s-Licking) feat.SPHERE of INFLUENCE&RICKIE G」
Oventuaraって何のことかなと思っていたら、「おべんちゃら」のことでした。男たちが並べる言葉を、それはおべんちゃらとバシバシ斬っているのが面白いです。
10.「X and The City(ハジメマシテ??) feat.4WD」
タイトルの元ネタはご存知、「SEX and The City」。4WDのつっこみが面白かったです。
22.「Focus On The Streets(my火リレー) feat.TOMOGEN(DOBERMAN INC),WAYZZY(IMP),MIKU(YA-KYIM),&MOGGY(9 FAR EAST)」
ここはHIPHOPらしいマイクリレーものです。トラックもシンプルなもので、ストリートでのフリースタイルをやりあっている感じがよく出ています。YA-KYIMははじめて聴いたような気がしますが、この曲を聴いていたら、YA-KYIMの作品を聴いてみたくなりました。
23.FAN feat.カミカオル
前の曲と比べると、落差に驚きます。このゆるゆるなhookは、かの小沢健二を私に思い出させました。NORISIAM-Xのあこがれるスターの名前が、随所に折り込まれています。
24.虹色の夜空 feat.JiN
これだけバラエティあふれる曲を演じておいて、最後はきっちり締めています。じっくり聴かせてくれる曲で、ある意味ズルいですね。


おそらく、このアルバムはふだんHIPHOPやR&Bを聴かないような女の子でも十分楽しめると思いますので、ぜひ聴いて、日本語ラップに対する偏見を取り除いて欲しいです。一つのエンターテイメントとして完成されており、久々に良いアルバムに出会ったなという思いでいます。いやあ、素晴らしい。