第98回 DJ YUTAKA「BACK UP (SAGARE) feat. MAD LION」

UNITED NATIONSII

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日本人のHard Coreなラッパーが「お前ら、邪魔だ」「そこをどけ」と日本語で叫ぶのはサマになると思うのですが、外国人が言うと(言わされると)何かヘンだな、という曲です。
そもそも外国語なんか通じればいいと私は思うのですが、やっぱりイントネーションが違うと、言っていることはわかるのにヘンな気分がします。英語だってLとRが違うと全然違う意味になることが多いですが、聴いているアメリカ人にとっては、何となくこちらの言いたいことを汲み取って理解してくれるのではないでしょうか。
その辺が、格好や外面ばかり気にする日本人が英語を苦手とする理由なのかもしれません。


さて、曲ですが、「BACK UP」の後に括弧で「SAGARE」と書いてあります。最初、私は何かの英語かと思いましたが、これは「サガレ」と読みます。日本語です。
DJ YUTAKA(もちろん日本人)のトラックに、レゲエDJのMAD LIONが歌うのですが(MAD LIONについて、詳しくは、http://www.listen.co.jp/artdetail.xtp?artpg=rc&artistid=158237を参照してください)歌詞の中に日本語がところどころ入っています。hookなんかほとんど日本語で結構上手なのですが、外国人が言うと、どうも不自然というか、つくづく日本語ってダサいなと思ってしまいます。特に「ユタカ」と叫ぶところがちょっとおかしくて、そこだけ浮いている感じです。外国人アーティストがここまで日本語を使っていただけるのは大変嬉しいのですが、残念ながらそう思ってしまうのです。
でも、逆もヘンに思うのでしょうね。日本人アーティストでも歌詞に英語を入れることは多いですが、アメリカ人にしてみると、「それは”日本語英語”だな」と不自然に思うことでしょう。


私は、いわゆる「英語のテストはできる」ってヤツで、読むことはできますが、話すことはままならず、リスニングに至ってはさっぱりわかりません。HIPHOPなのにアメリカのHIPHOPを聴かないのは、「何言ってるかわからない」だけで、私自身は残念なことだと思っています。その辺りの劣等感もあるのでしょうか、英語のラップの方が日本語ラップよりかっこいいと思います。


日本にHIPHOP、ラップがなかなか火がつきにくいのは、文化と言語の構造の違いだと思います。
HIPHOPがこの世に誕生したのは、黒人層、貧困層といった社会的構造からであり、それは当然の成りゆきとも言えます。そのような社会構造を持たない日本に、それが突然、まるで風に吹かれたように入り込んできたわけですから、根付くとしても時間がかかります。
そして、英語と日本語の構造の違いもあるでしょう。文法の違いもあるでしょうが、英語は子音が続いたり、子音で終わる単語が多いですが、日本語の単語は、基本的には、子音、母音、子音、母音…の決まった構造なのです。母音が規則的に並び、しかも、子音に比べ母音は長く発音されるので、どうしても間のびした感じになります。


では、日本語ラップのパイオニアたちはどうしたかというと、ひとつの解決策として、日本語独特な押韻を採用したのです。英語のラップの押韻は、短い音レベルで多く韻を踏んでいくのですが、日本語は英語と比べて、複数の音で韻を踏んでいくのです。「子音、母音、子音、母音…」構造を逆に有効利用したのです。
例えば、「子音+a、子音+a、子音+a」という3つの単位で韻を踏んでいくことにします。日本語で考えると、いっぱいありますね。「あたま」「たから」「さかな」「はかば」…。一つの単語で考えるのではなく、二つに分けることもできますので(例:「〜したら、あそこに…」の「たら、あ」もこのパターンに当てはまる)、結構あります。わずか3つの単位の押韻は、日本語では簡単にできるのですが、英語だとなかなか難しいのです。実際、日本人ラッパーで特に押韻にこだわっている人たちは、3単位くらいは基本的なもので、もっと長い単位で押韻したり、さらに複雑にパターンを組み替えたりします。


今回はなんだかアカデミックになってしまいました。大学のレポートみたいな文章になってしまいましたが、HIPHOPはそんなこ難しいことはどうでもよくて、楽しければそれでいいし、ラッパーの思いが伝われば、それでいいのです。