第94回 DJ MA$A「蛙鳴蝉噪 featuring MURO」

THE BEST OF JAPANESE HIP HOP vol .2

THE BEST OF JAPANESE HIP HOP vol .2


HIPHOPをやっている人は何かチャラチャラしてる」「頭悪そう」というイメージがつきがちですが、そんなこともない、ということを今日は言いたいと思います。
少なくとも、押韻にこだわっているラップの人たちは、帳じりをあわせるため、辞書とにらめっこかもしれません。俳句を作る時に極力、五・七・五の形に揃えるように、ラッパーの人たちもそれなりに苦心しているはずです。したがって、リリックを見ると意外なアカデミックな言葉が入っていることもあるのです。


「蛙鳴蝉噪」。何でしょうか。何と読むのでしょうか。造語かとも思える、この四字熟語がタイトルのHIPHOPが日本にあるのです。
普段の会話にまず出ることないだろうし、死ぬまでに一度もお目にかからないかもしれない四字熟語ですが、私が高校の時に使っていた国語の資料集の四字熟語コーナーには、載っていませんでした(つまり、知らなくていいわけですが)。
読みは「あめいせんそう」。
意味は、

  1. かえるやせみがやかましく鳴く。
  2. かましく騒ぐ。
  3. 下手な文章や、つまらない議論。

(『旺文社漢和辞典 80年新版』より)

おそらく3番の状況を糾弾している曲だと思いますが、なぜこの言葉を知っていたのか、選択したのか。少なくとも、よく知ってるなと思います。


MUROつながりで言えば、MICROPHONE PAGERに「鬼哭啾啾」という曲があります。アナログでリリースされ、CDでは『NEXT LEVEL(1)』で聴くことができます。
これは何とか読めそうな熟語です。「きこくしゅうしゅう」と読みますが、意味が見当もつきません。どういう場面で使う言葉なのか。

亡霊がなく。また、ものすごいけはいのただようさま。(『旺文社漢和辞典 80年新版』より)

亡霊(この場合の「鬼」は、節分の鬼ではなく、死んだ人間の魂のこと)が哭くわけですが、どうしてこんな言葉を知っているのか謎です。
曲を聴くと、確かにものすごいけはいのする感じです。


他には、TWIGYの「AN-CHO-VY 〜百鬼夜行〜」(『悪名(あくみょう)』収録)というのもなかなか難しい四字熟語ではないでしょうか。私は見たことありますし(漫画の「ゲゲゲの鬼太郎」で見た気がします)読める熟語ですが、やはり日常会話では出てきません。
「ひゃっきやこう」と読み、

  1. 多くのばけものが夜中に歩きまわる。
  2. 多くの悪人がのさばりはびこる。

(『旺文社漢和辞典 80年新版』より)

という意味です。


この3曲のリリースされた時期がそれぞれ近いことを考えると、この時期は「日本語で」ラップをやる意識が特に強かったのかもしれません。「蛙鳴蝉噪」ほど難解な四字熟語はあまりないでしょうが、この時代に限らず四字熟語タイトルの曲は結構あります。


ちなみに、ラッパ我リヤの「諺ボキャブリズム featuring 三善善三」(『日本改造計画』収録)は、これまたなかなか使わないことわざをおりこんだ曲です。
さすがに、普段から難しい四字熟語や慣用句は使わないでしょうが、案外ボキャブラリーは豊富です。その場で即興でやるフリースタイルなどは、言葉を知っている方が有利ですから。