第526回 GDX『SLOW BURNING』

SLOW BURNING

SLOW BURNING


GDXはすごいです。
日本語ラップ草創期からギャングスタラップを支えてきたベテランで、若い連中から「おっさん」と言われたっておかしくないのですが、何なのでしょうか。このクォリティは。
若いだけでなく、やはりクォリティが他のアーティストと比べて高いのです。「衰えていない」という表現も野暮であるほど、まだまだギャングスタスタイルの中心的存在と言っていいでしょう。
GDXの後輩とも言えるギャングスタラップのアーティストも数多く作品をリリースしていますが、やっぱり本物は違うというか、気合が違います。いやあ、すごいです。


アルバムは、前半と後半に分かれます。前半は、もうGDXにしか書けないスジ金入りの悪い曲が続きます。ほんとにワルいGDXにしか書けないリリックで、説得力ありまくりです。


02.King -N- Queen feat. YOKO(Still-Low-Profile), YAS(BLACK BELT)
このアルバムのリード曲と言っていいでしょう。2曲めから、このクォリティにやられました。フィーチャリングのYOKOのラップがかっこよく、YASも若さで聴かせてくれます(最初から畳みかけるようなラップは、若手らしいです)。BAYA(Still-Low-Profile)のプロデュースも良いです。この三人の他の曲も聴いてみたいと思いました。
03.密告者 〜Informer〜 feat. PHOBIA OF THUG, RICHEE(GHETTO INC.)
この曲はワル過ぎて、正直言って、私には賛同しかねます。密告者つまり警察にチクったヤツを裏切り者として、disりまくっている曲です。自分たちが悪いのだから、チクられても文句言えないだろうと言いたいですが、そこにはワルの掟というものがあるのです。世の中の流れで言えば、密告=内部告発しやすいようになっているのですが、こういう曲を聴いてしまっては、告発する勇気も失せるというものでしょう。正義に熱い漢は聞かないように。
04.小菅ヒルズ feat. 拳太(J-GREN), HULK
東京に住んでないとピンと来ない地名ですが、小菅は、東京拘置所がある場所です。前曲で密告されたからか、拘置所内の曲です。フィクションかノンフィクションがわかりませんが、現実的な=リアルな表現が連なります。それにしても、この曲を聴いてもあまり反省の色がうかがえないのは、根っからのワルということですね。小菅ヒルズというタイトルも面白いですね。


ここからは、一転して甘い曲が続きます。
05.After Summer feat. Kayzabro(DS455), JiN
D-Originuのトラックも甘ければ、Kayzabroのラップも甘い。これまでの流れは何だったのかと思わせるくらい、癒される曲です。落差が大きすぎて、戸惑いさえ覚えます。いやあ、いい曲ですね。こういう曲も好きです。
06.Holiday feat. AK-69, HOKT
イントロだけでわかってしまうほど、「いかにも」な感じのDJ PMXのトラックの曲です。意外と、このアルバムの中では目立たない曲ですね。ひと昔前までは、こういう良質でウェッサイな感じのトラックはPMXくらいしか作れなかったと勝手に思っているわけですが、最近は、同じように聴かせる若手のトラックメイカーも増えてきましたね。とはいえ、まだまだPMXの腕も衰えることなく、私の耳を楽しませてくれます。
07.Be With U feat. BIG RON
冒頭からBIG RONのhookが始まるのですが、おそらく多くの人が、その歌声に某スピードワゴンのように「あま〜い」と思うことでしょう。BIG RONを見たことない人はぜひ写真を見て欲しいのですが、なぜあの身体から、こんな甘い声が出るのでしょうか。聴くほうが照れてしまうようなストレートなリリックで、これを歌う人がGDXでなければ、BIG RONの甘い声で大ヒットすること間違いないでしょう。ドラマや映画の主題歌などで、世間的に認知度の高くてラップも少しできる人がいれば、売れまくるのでしょうが、残念ながら、この曲はGDXの曲です。このアルバムを通して、GDXはいろんなタイプのリリックを書いてますね。同一人物とは思えません。


最後は、ややギャングスタスタイルに戻ります。
09.4 Tha Hood feat. ZEEBRA
他の曲は割と若手のアーティストを多数フィーチャリングしたものが多いですが、この曲はZEEBRAひとりをフィーチャーしました。ZEEBRAもキャリアが長いとはいえ、GDXとは世代が違います。ただ、このアルバムの曲リストを眺めてみると、どこか同じ”ベテラン”という存在にくくられてしまっている感じがします。若手ではないかもしれませんが、十分にかっこいい曲ができあがっています。それにしても、hookの「This is 4 tha hood」の言い方が耳に残りますね。印象的です。
10.Outlow Connection
最後は、大人数のマイクリレーです。多くは若手アーティストですが、OZROSAURUSのMACCHOやMC仁義なども参加しています。このブログでも紹介したことがあるGipperやDESTINO、特徴的なD.Oなどの声はわかりますが、誰がどこを歌っているのかよくわかりません。まだまだ、私も勉強せねば。


若手の面倒を見つつも、日本のギャングスタラップの先頭に立ち続けているGDXはやっぱりすごいです。