第449回 スチャダラパー『5th WHEEL 2 the COACH』

5th WHEEL 2 the COACH

5th WHEEL 2 the COACH


日本のHIPHOPにおいて、1995年は意義のある年だというのは再三述べてきましたが、それはいわゆるアングラ作品の話についてでした。
一方、同じ1995年に、スチャダラパーは『5th WHEEL 2 the COACH』というアルバムを出しました。このアルバムが、今考えると、これはこれで凄い作品だったと考えさせられるアルバムだったのです。


この時期、キングギドラMICROPHONE PAGERらは、「何がリアルか(俺たちがリアルだ)」を追求したハードコア路線を歩んでいました。この動きは、おちゃらけラップに対するアンチテーゼと見ることもできるのですが、その一方、スチャダラパーの同時期に出したアルバムは、どこ吹く風というように、実にスチャダラらしいアルバムです。


アルバム全体を聴いて言えるのは、どうでもいい内容なのです。でも、この「どうでもいい」のがとてもいいのです。
このアルバムの中で、さらに評判が良いのは、「サマージャム'95」です。夏にぜひ聴きたいというファンが多い曲なのですが、実に中身がありません。
内容は、ボーズとアニの他愛ない会話です。きっとクーラーのそこそこ聴いた部屋で、窓の外を眺めながら喋っているのでしょう。この時期に、ぼんやりこんな他愛のない話をしている人間はたくさんいるでしょう。だからこそ、いいのです。
別に夏だからといって、特別に外に飛び出して、海に行ったり、汗を流さなくたっていいのです。
トラックもChillな感じが出て心地よいのですが、歌詞の「普段通り」「構えない」「マイペース」「(適度の)脱力感」が良いのです。暑さにやられ気味のフロウもポイントです。


他にも、結局何が答えなのかわからない「ドゥビドゥWhat?」、遅刻の言い訳を考える「The Late Show」(タイトルが見事)など、曲の存在意義があまりなさそうな曲が続いています。


私はどちらかというとハードコアな作品が好きですが、アメリカと違って、そういう作品は日本人にはなかなか受け入れられないようです。環境が違い、アメリカと比べて日本は平和だからでしょう。
確かに、一般家庭に育った日本人ラッパーがサグだリアルだと言われても、説得力がなくて、そこを突かれると困るのですが…。
スチャダラパーの持つ世界観の方が、やはり受け入れられやすいでしょうね。でも、この二つの両極端がバランスよくあると、二つとも活きるのです。どちらか一方の作品ばかりだと、やはり不自然です。


しかし、90年前半から道を見つけて歩んできたスチャダラパー。このアルバムが、とても10年以上前の作品とは思えません。特にトラックを聴くと、その質の高さに驚きます。