第43回 YOU THE ROCK★『NO SELL OUT ’05』

NO SELL OUT’05

NO SELL OUT’05


HIPHOPの雑誌に「blast」というものがあり、毎年3月頃に一年のHIPHOP"大賞"を決める「blast AWARDS」が特集されます。
私は音楽雑誌はあまり好きではないので(文章が浮わついていて、何を言いたいんだか伝わってこないから)、普段は読まないのですが、blast AWARDSだけは毎年チェックしてます(立ち読みですいません)。
「BEST HIPHOP ALBUM」とか「BEST HIPHOP GROUP」などいくつか部門があり、多くはアメリカのアーティストがノミネートされますが、トップ10のうちに3〜4作品くらいは、日本のHIPHOP作品が選ばれます。
やっぱり自分の好みと、音楽雑誌の批評家さんやライターさんの意見が違うので、「世の中の人は、こういう作品が好きなんだ」と喜んだり、逆にがっかりしたりします。


さて、YOU THE ROCK★の今年出たアルバムですが、結論から言うと、この作品はノミネートされると思います。夏以降もHIPHOP作品が出るので断言はできませんが、音楽的センスから言うと、かなりレベルの高い作品ではないでしょうか。
ちなみに、私の好みで言えば、100点満点で85点くらいの作品です。


ZEEBRAの『TOKYO'S FINEST』、RHYMESTERの『グレイゾーン (CCCD)』、ラッパ我リヤの『RG A.I.R.4TH』など、いわゆる"10年選手"たちのHIPHOPアーティストの最新アルバムは、今までと趣向を変えてきました。
気分転換、音楽の幅を広げるという意図や、「基礎(地盤)は自分たちで作ってきたから、後は若いアーティストにまかせて、今回は自分の好きな音を作ろう」という思いがあるのではないかなと思って、聴いてきました。
しかし、同じベテランYOU THE ROCK★が『モンスターロック』をシングルで出した時は、「こう来るのか?」とちょっと疑問に思いました。
この頃、テレビに出てきたりしてるしなあ。キャラを買われて、バラエティ番組に出たり。
で、アルバムのタイトルに、「NO SELL OUT」と。


このアルバムが出る前に、先行シングルとして『GRAND MASTER FRESH PART.2』が出ました(Part 1も収録されているので、なぜPart 2がA面なのかちょっと疑問に思いましたが)。
そして、Fantastic Plastic Machine(Part 2)や東京スカパラダイスオーケストラ(Part 1)と共演している。なるほど、次のアルバムはそういう路線で来るのね。
ちょっと安心して、アルバムを聴きました。


しかし、アルバムを聴くと、それらは断片にしかすぎないとわかります。これぞオールドスクールの「ROCKS」や、レゲエを意識した「ABAREDAIKO」などありますが、テーマとしてあるのは、自分の名前にも入っている「ROCK(する)」ということなのでしょう。やはり、オールドスクールへの愛が感じられます。


YOU THE ROCK★の今までの作品の中で一番印象的なのは、「BLACK MONDAY」(アルバム『ザ・サウンドトラック’96』に収録)で、96年当時のHIPHOP状況をこの一曲で体感できるほどの豪華MCリレーです(Mummy-Dも入っています!)。他にも、YOU THE ROCK★には名曲(クラシック)がありますが、それらの名フレーズを連呼する「CANDY CANDY CANDY」は、昔からのファンとしては、嬉しいところでしょう。


そして、プロデューサーもDEV LARGEMUROFORCE OF NATURE、T.A.K THE RHHHYME(!)を迎えています。
曲こそ2005年現在に流行しているHIP HOPではありませんが、このアルバムは間違いなくHIPHOPであり、しかも、こういったアルバムで「NO SELL OUT」と言えるのは、長い間経験を積んできたYOU THE ROCK★だからできるのでしょう。


しかも、YOU THE ROCK★がズルいのは、こういうアルバムを出しておきながら、KAMINARI-KAZOKUとして、『大災害』や『330 More Answer No Question』など、大暴れできる場所があることです。


テレビでしかYOU THE ROCK★を見たことない人は、ぜひ今回のアルバムと、90年代に出た昔のアルバムと、KAMINARI-KAZOKUのアルバムを聴いてください。
その人は、すごい人なのですよ。